2007年11月10日土曜日



欲望は欲求と異なり、望む対象が与えられ、欠乏が満たされても消えることはない。その種の渇望の例として、コジェーヴを始め、彼に影響を受けた多くのフランスの思想家たちが好んで挙げてきたのは、男性の女性に対する性的な欲望である。男性の女性への欲望は、相手の身体を手に入れても終わることがなく、むしろますます膨らんでいく。というのも、性的な欲望は、生理的な絶頂感で満たされるような単純なものではなく、他者の欲望を欲望するという複雑な構造を内部に抱えているからだ。平たく言えば、男性は女性を手に入れたあとも、その事実を他者に欲望されたい(嫉妬されたい)と思うし、また同時に、他者が欲望するものをこそ手に入れたいとも思う(嫉妬する)ので、その欲望は尽きることがないのである。人間が動物と異なり、自己意識を持ち、社会関係を作ることができるのは、まさにこのような間主体的な欲望があるからにほかならない。動物の欲求は他者なしに満たされるが、人間の欲望は本質的に他者を必要とする(東 126-127)。

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